しみわたるよろこびと不安
町田康氏が好きです。
熱狂的でないけれど、チェックする作家さん。
独特のドライブ感とか異様なテイストがあるので、
作品によって、合う合わないが結構あるんですけど。
『くっすん大黒』と『夫婦茶碗』あたりが、私としてはツボ。
『告白』は圧巻でした。長いし。暗いし。厚いし。
すこし『ねじまき鳥クロニクル』を思わせる。話は全然違いますが。
登場人物が、自分の意図と関係なく悪意とか殺意に翻弄されるところが。
ものすごく夢中で読んだけど、再読する勇気がもてない。
さてそんな町田康氏の ねこ本をご紹介。いまのところ計三冊。
猫にかまけて
猫のあしあと
猫とあほんだら
かなり異色、独自の文体を自在に操る町田康氏ですが、
ねこ本についてはむちゃくちゃ読みやすい。
氏の著作の中でも抜群の人気を誇ると言うのも、よくわかります。
題材のとっつきやすさも大きいのでしょうが、それにしても町田氏の視点は独特です。
とにかく 猫がかわいくかかれていない。
でも、あえて不細工に、とか、いじわるくかいているわけでもない。
く距離を置いて、冷静にありのままを描写している。
そしてその猫が、結果としてものすごく可愛く、いとおしい、という・・・!!
(もしかして猫飼いセンサーとして、
伝わらない人には全く伝わらない作品かもしれません。
でもそういう人はそもそも、こんな本読まないような気も)
うちのこいいでしょ、かわいいでしょ成分はマーッタクありません。
ほんと言うと私自身の心情は同じはずなんです。おかしいな。
ちこはただそこにいるだけでかわいくてすばらしいので、声高に言う必要がないんですね・・・・・!!
(言葉を自分にしみわたらせている)
ただ私に 伝える力 がないので、色々あまってしまうと言う。
意余って力足らず。
相手するのもめんどくさそうなちこさん。
さておき。
猫をなくすときの描写が圧巻です。苦手な方は注意。
ただ淡々とその経緯を描く。
臨終のあっけなさ、人間の無力さ、命を何とかしようと思わずにはいられない不遜さ。
そしてその後の、不在に慣れることが出来ない心の描写が、胸にせまります。
さびねこのココアちゃん。22才、猫にしては大往生と言われる年令。
それでも足りない。まだまだ足りない、あと一日でも長く一緒にいたかった。
今までずっと一緒にいた存在がいないのが、それがひたすらに辛い。
ともに過ごす喜びと、全く同じ距離感で、ただ静かに語られる不在と悲しみの質量。
そう、質量のある感情なのです。
それでも作者は、猫を拾う。猫も、町田さんをみつけてしまう。
1作目の冒頭では2匹だったのですが、3作目では10匹前後となり、
それぞれの猫の個性をそれぞれに淡々と活写する、
愛情とおかしみの深さがしみわたります。
ひいきもなにもなく、ひたすらにひとつひとつの命のいとおしいこと。
でも何より驚いたのは、
こののちに崩壊ブリーダーからスタンダードプードルを二匹引き取っていたこと!
(作者は伊豆半島在住で、犬猫ともに充分なスペースが確保できるので、
環境的には問題がないとのことです)
スピンク日記
基本的に距離感は変わらないのですが、
犬側が『ポチ』と呼ぶ小説家の人間を描写すると言うスタイルで
しかもねこにはほぼねこ主体主義を貫く作者が、
表紙写真をみるかぎり、スタンダードプードルと言う犬種の故か、
犬に装飾が施しているのに何より驚きました。
プードルに装飾と言えば、リボンつけるようなアレです。
ねこと犬とで扱いが自然に違ってくるのかしら。興味深い。
ねこは猫主体主義なんですが、
犬は
「こんなんですがいかがですか? 」
相談してくるかんじ。
まあ私がアレなんで色眼鏡なのかもしれませんが。
いずれにしても命の重さに変わりはないのだなあと言うことを、
さらりとふわっと、でも深く届けてくれます。
あとがきで、町田康氏はこう言っています。
*********************************
ねこの命はあずかりものである。
自分より小さく、短い命のものとともに暮らすと言うことは、
自分が彼らになにを出来るかを考えねばならないことである。
ねこに癒されるのも事実かもしれないが、
彼らが幸福で健康な生涯を全うできるように何を考えるか、まず考えるべきであろう。
ねこにかぎらず、私たち自身が当たり前のように持っていると思っているものさえ、
実は預かり物なのかもしれない。
だから、それらを傷つけてはならず、大切に扱い、利子をつけて返さなければならない
**********************************
(『猫のあしあと』 あとがきより、著作権的に心配だったのでちこぼん意訳。
もし原文の本意を誤って伝えている場合、文責はちこぼんにあります・・・って、固い?)
ねこの1年は人間の5年とも、7年とも言います。
すごい勢いで私の年令を追い越してゆくちこの体を抱きしめると、
その中を駆け抜けてゆく速度の速さが怖ろしくもいとおしくもなる。
ちこの毎日を、ちゃんと楽しく満ち足りた幸せなものに
してあげられてるのかしらと、不安に思う私に、
全身を震わせて海鳴りのような音を立てて返事をしてくれるちこなのです。
海鳴りって、実際には聞いたことないけど
(ナイトスクープではやってました)
最後はのろけなの? ええ、まあ、わりとそんなかんじ(照)
自然にそうなっちゃうの。だってちこがあまりにもすばら(略)
by chico_book | 2013-03-24 20:16 | 本 | Comments(2)
Commented
at 2013-03-24 23:54
x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
chico_book at 2013-03-25 05:13
非公開コメさんへ
ご指摘ありがとうございます。多謝。
一応対応したつもりです。おちつけ自分、といったところですね。まったくもう。
ご指摘ありがとうございます。多謝。
一応対応したつもりです。おちつけ自分、といったところですね。まったくもう。
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