自分にびっくりしつつ、とつとつと整理してみた

◎『砂とアイリス』2巻の感想の続き。前半はこちら。

梶谷先生には世界中を飛び回っているパワーウーマンな妻・サラさん(でも夫の前では繊細さん)がいるし、
なぎさにも勤務先に夜食の差し入れを持ってきてくれるような「優しい彼氏」がいます。

それでもなんとなくひかれあうふたり。
尊敬出来る人の意外な面をみつけて、かわいいな、いいな、なんか気になるな、と言う心の揺れ。
なんでもない相手には「何それ!」とか、「ないわー」と、楽しくつっこんで
さらっと流せるようななことのひとつひとつが、ほんのりした好意という苗床の上では、
ふわふわ湧きあがる、たよりなくもうわついたかんじ。
いとおしさ、たのしさ、些細なことほどうれしい。
ときめきという一言で片づけるにはあまりにもったいない感情がていねいに描写されます。
ロマンチック。

「なんとなくその人のことを好きだなって思うことあるわよねえ
更になんとなく彼の方もわたしのことを好きだなって思うことも
うぬぼれてるんじゃなくて わかるの
そういうことって たまに あるから」
『サードガール』7巻より
※新装版での収録巻数は不明

本命を大切にしていないのではなく、ある種の親密のあらわれで、肌を重ねてもいい。
つみかさなった好意。大事にしたい恋ごころの種のような。
まあ、なんと表現したところで現実に即して言えば、裏切りとか浮気とか言われてしまえば
否定しづらくもあるのですが、それをふわっとくるんでしまう魔法。
それこそが西村しのぶの極意。

そしてそれを、パートナーには秘密にする。それは後ろめたさからではなく。
だってきっと傷つけてしまうから。きっと相手は悲しむから。



こんないい曲をこんな仕上げにしてしまう、80年代の不思議、

それでも関係へと、踏み込んでしまう。踏み込むのをやめられない。
それはなぜかというと、そのときの自分の気持ちに忠実にあることなのかなと思います。
相手(パートナー、あるいは配偶者)との関係を前提にした、「相対的な」誠実と、
自分の気持ちへの忠実とのはざま。その揺れ。
どんな約束も一瞬ごとに過去のものになる。いまこの瞬間には無意味。
そしてその上で、それでも相手の手を取ること。
そしてパートナーとして関係を保ち続けることを、さらりと描いています。

「RUSH」の百合は、恋人である住吉先生
(先生だらけなのはそういう仕様だとしか。ちなみに住吉先生も歯医者さん(笑))に
誘われたパーティで出会った男性に心魅かれます。こともあろうに、住吉先生の友人なのですが。

住吉先生にはない、その男性と自分の共通点、ある種の傷であるそれを、
百合はそれを見逃すことが出来ません。彼の寂しさをいま慰められるのは私だけ。
そして彼らは関係をもちます。危険を冒して。
「住吉に秘密をもてる? 」
「やってみる」
のりこなしたいよ。おとなになるために。と言うモノローグがそこにはいります。たしか。
(いま手元にないので、うろ覚えですが)こ、高校生なんだけどね、百合。

傷やリスクを怖れて手を伸ばさないのではなく、それを理解したうえで覚悟して踏み込む関係。
その甘さ、苦さ、覚悟、怖さ。たとえばそれは浮気、や、ふたまた、と言った
わかりやすい色恋がらみでなくても、どれだけ信頼している相手に対しても、ふいに訪れる瞬間かもしれない。
人生の根本に対する不安と、その不安に対峙するいさぎよさ。
それを、あえて恋愛に託した微妙なさじ加減をぜひ『砂とアイリス』では描ききってほしい! 
堪能させてほしい!! と、勝手な期待で大変にわくわくして入手した本作。
ああ、長かった!!

しかしこれは。ううむ。ううむ。これは・・・これは大変に微妙だわ。

おそらく、私が職場でさんざん教え込まれている「セクシャル(パワー)ハラスメント・コンプライアンス研修」の
成果なのかもしれません、とほほ。

と言う訳で以下のことが大変に気になってしまいました。うー。くやしい。

まず、好意を持ち合っているふたり、梶谷先生となぎさに直接の仕事上のつながり、
利益の発生する関係であること、
そして現場や職場でも、好意を隠さないうえに、パーソナルな距離が近いこと
(ハグをすることとか、男性が女性の白衣の襟をなおすレベルの接触とか)が
ひっかかってしまってたのしめなかった。なにこれ、さみしい。自分自身がさみしい。

私が職場でしつこくしつこく言われているのは、
たとえ同性同士でも接触していい場所は「肩から二の腕までを厳守」。
(体の部位に関しては、パワハラともリンクしているのですが、いずれにしても)

なので、まず接触じたいを避ける。徹底してしないように心がける。
本人たちがどうでも、まわりからどう見られるかを常に意識する。

もちろんふたりがプライベートな場所で秘密のデートをするときの接触は、全然気になりません。
ただそれが、職場だったり職場にものすごく近い場所(作中だと博物館等)だったりすると、
絶対に人目ある。狭い業界だろうし。おそらく舞台は神戸だし。
そして事実はどうあれ、噂が立ってしまったら、本人たちのみならず、
その組織にとって結構な致命傷になる、ことが、多い。

なので、人目あってばれるよねこれ、既婚者である若手助手が、しかも妻の不在時に、
なにかと面倒見てる後輩女子とデートとか・・・、と、なんとも生臭くもはらはらしてしまったのでした。
なんということでしょう。こんなふうに西村しのぶを読む日が来ようとは! 
自分で自分にびっくりですよ!! 
リアリティの有無なんて野暮なことを、西村しのぶの作品に問う日が来るなんて…(悄然)
なんかよくわかんないけど私のなかで何かが終わったのかも、と、
ここ一月ほどちょっとしょんぼりしてました。大袈裟にいえば。

次に、主人公・なぎさの研究者としての立ち位置・レベルがよくわからない。
今のところ強調されているのは、発掘の技術、腕前の丁寧さ性格さ評判の良さ。
そこは良く伝わります。
でも、これがその現場でどういうふうに優秀なことなのか、
研究者としての有利不利とか、どういう位置にいてこれからどうなりたいのか、
どういうロードマップを前提にしているのか等々がいまひとつ見えにくい。
悪くとれば、優秀なセクレタリーとまりにも考えられる。
それなら、少し上の(年近の)職員にはかわいがられるだろうけど、
便利に使われてそれどまり、に見えないこともない。

それ次第で、上段の部分が「セクハラ」(あるいはアカハラも該当するかも)を揶揄されかねないことなのか、
それとも全くそんなのお門違いなのかが違ってくるような気がするのです。そこが見えない。
しかも本人が「研究室」を離れて企業に入っている身である、
というのがそれに拍車をかけているように思います。

わかりにくい、ちょっと変わった業界の話だと思うのですよね。
それとも私がよくわかってないだけなのかもしれませんけど。とほほ。
でも、知らない世界の話でも、たのしく読める事のほうが多いです。
たとえば、『アルコール』や『一緒に遭難したいひと』での夜のお仕事の、
華やかだけど裏方の地味でポイントなところとか、
『ライン』のアパレル業界のこととかは、門外なりに楽しく読めたのです。
今回そういう部分がやや不案内。

たとえば、一巻の発掘現場のおばさまたちにかわいがられるシーンでも
「この子(なぎさ)を立派な現場監督に育てあげます! 」
と宣言するおばさまたちは、いわゆる発掘のバイトさん(ただしベテラン)??
ということは現場のベテランだけど研究者ではないという位置づけでいいのかな。

それに対して「ちょっと違うー」、と、突っ込むなぎさは、
では「現場監督」ではない、どういう位置をどういうふうに目指しているの?、
研究室に戻って、本来自分の望んでいた『古代ガラス』の研究をしたいのだろうとは、思うけど、
現状ではそこに至る道のりが全く分かりません、私。

かといってキャリアの段取りはこう、、この段階の課題をこうしてクリア、
またヒトツ階段のぼったよ!! みたいのが読みたいわけではないのです。
そういうのが読みたかったら槇村さとる先生を読むわけです。
ただもうすこし、情報が整理されてないと、読んでいて迷子になっちゃう、と言うのが素朴な感想。
ふたりの関係と、『考古学』という素材のバランスの、そのどちらを描きたいのか、少し馴染んでいない印象かな。

ほかにも、登場する他の大学? あるいはほかの研究室? の重鎮先生方との関係とか、
梶谷先生の妻であるサラさんが
『いまは、うちの植物研の連中をアテンドして撮影と採集のためジャングルにいる』
というのが、どういうことなのかも、不明。
サラさんの立ち位置とかがもうすこしわかりやすと、いや、なじみやすいと、戸惑わずにすむのかな。

とにかく、全体的にはロマンチックで甘くてちょっと不穏という王道で、
梶谷先生の力の抜けっぷり、なぎさの素直さ、妻サラさんのやや不安定な美女ぶりと、
大変に役者がそろっているので、いまのところ『ちょっと惜しい』という感想で、おちついています。

なぎさの
「あなたのことがかわいいの 
ダメな大人 
私に泳ぎきれるの」
と言うモノローグは、上記の百合の覚悟に該当するものだと思うのですが、
梶谷先生側はどうなんだろうなー。
でもあんまり男性側の心情は踏み込まないかなあ。
それでもさらっとでいいので、しっかりぱっきり描いてほしいなあ。
このあたりが、3巻以降の読みどころだと思います。

恋をしていても、自立がまず一番大事。
スイートな依存はするけど、自分を渡したりはしない。
自分の自由さ、足元をきちんと確保して、その上で共有できるぶんをわかちあいましょう。
だから、他の人に心揺れるところを、パートナーのあなたには見せない。
それは私の守りたい一線だから。
この感じを存分に味あわせてくれそうな、西村しのぶの久々の作品なので、
ぜひとも次巻以降でこのあたりのもやもやが解消されることを、期待しております。
と言うわけで、梶谷先生のしゃらんとした態度、妻サラを充分愛しているのに、
なぎさのことをかわいいと思っているさじ加減に引き続き期待、しても大丈夫。
だよねぇ、と、弱気になりかけている記録でした。

「なぜ嘘をつけないか知ってる? 人は守りたいものに嘘をつくの。あるいは守ろうとするものに」

スイートリトルライズ

江國 香織 / 幻冬舎


 
「自分のしたことに後悔なんかしないわ」

思いわずらうことなく愉しく生きよ

江國 香織 / 光文社



今回こうして文章にしてみたら、漠然と思っていた以上に江國さんと共通点があるかも。
そういえばおふたりとも、やたらと「ファンタジー」あつかいされますよね。
ファンタジーではあるんだけど、その中のリアルの置きどころ、さじ加減が大事。

充分長文なんですが、まだ取りこぼしがある気がするので、
ぼつぼつ継続して考えようと思います。

そして、このネットで見つけた新刊情報!! 全然気がつかなかった。
ありがたい。すぐじゃないですか。わーい。11/7発売。

ヤモリ、カエル、シジミチョウ

江國香織 / 朝日新聞出版



江國さん、私は作品によって合う合わないがはっきりわかれるので、
ちょっとどきどきしながら期待。

11月はあとふたつあります。両方コミックス。

『姉の結婚』8巻 11/10

姉の結婚 8 (フラワーコミックスアルファ)

西 炯子 / 小学館


完結したとのこと。情報をシャットアウトして、読まずにじたじたと待ってます。

『3月のライオン』10巻 11/28

3月のライオン 10 (ジェッツコミックス)

羽海野チカ / 白泉社



・・・この表紙の女子はだれ???

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by chico_book | 2014-11-05 02:09 | まんが | Comments(0)
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ねことか本とかまんがとか、と言いつつ映画にじわじわ圧される幸福


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