80年代的痛々しさとかファンタジーとか

姉の結婚 6 (フラワーコミックスアルファ)

西 炯子 / 小学館



足踏みしているような6巻。
一見「立派な大人」で「立派な社会人」に見えても、その実中学生並の初恋をこじらせてる
アラフォーたちの人間模様が引き続き描かれます。
※過去記事はこちら→姉の結婚5巻

心を残したまま別れた不倫相手を思い切れない主人公、ヨリ。
仕事は順調で、本業の公立図書館司書のほか携わっている県のイベントでも中心的な立場。
そもそも結婚だの恋愛だのという「煩わしいこと」は全部パスして、のんびりプチ老後を目論んで30代半ばで
地元へUターン再就職したことを思うと、何の問題もないはず。
なのにヨリは大きく惑いつづけます。
狭い街なので、別れた二人はそこかしこでどうしても顔を合わせてしまう。
気配が伝わってしまう。ヨリは痛感します。
「この街にいては恋が終わらない」

そこに登場するのがあこがれの作家・夢幻堂遥先生。
「君は自由だ。君みたいな人間は田舎では生きにくいはずだ。もう一度東京においで」

自由ということに自分はもう飽き飽きしているる。正確に言えば倦んでいる。
誰かのものになって、誰かの庇護化にあり、重苦しい不自由を満喫したい。
(とまでは、ヨリは言っていませんが)
庇護されるということは、あまやかな不自由であるわけです。
このへんは江國さんが詳しいかな。

思いわずらうことなく愉しく生きよ

江國 香織 / 光文社



正直言って、話が混乱している印象。
初期のヨリは、静かな地方都市での平穏で静謐な生活を、かすかな寂しさと概ねの満足で送っていた女性。
どちらかと言えばキャリアで、家のことには割合無頓着な部分も。「働きマン」的なイメージが近いかも。

働きマン(1) (モーニングKC (999))

安野 モヨコ / 講談社


松方のように肩で風切るキャリアではないけれど、仕事あるいは自分の興味に優先順位があるタイプ。
東京での仕事を辞め、決して華々しくではなく、そっと息を潜めた地方へのUターン。
そんな彼女が、少しずつ認められ、あたらしい場所で居場所を築いてゆく。そこはいい。
けれどその反面、愛に臆病で逃げ続ける人間でもある。
求められればすぐさま相手に自分を差し出してしまう、その結果不倫や浮気相手の位置にいつづける女性。
それがヨリ。

本作で彼女を激しく求める男性・真木もやはり既婚者です。
彼の場合は中学時代の初恋の相手でのヨリをずっと胸に思い続けていて、
結婚も愛情以外の要素で成立しているので、心情としてヨリは浮気相手ではなく『本命』なのですが、
ふたりの関係に将来という選択肢がないことは事実。

その苦しさからあまりにも都合のいい夢幻堂先生の手を取るのか。
「僕の仕事を手伝ってほしい。自宅のほかに仕事場があるからそこをつかえばいい。
収入はいまと同等を保証する。たまに食事を一緒にしよう。
そうだな、セックスはしてもしなくてもどっちでもいい」

大人である登場人物たちの、子供の頃そのままに迷い傷つく心模様が繊細に描写されて、
それはいいんだけども。も。も。
ないわー。といわざるをない。ないわー。いろいろ残念。

いろいろあるのですが、あえてひとつ選ぶとすれば

・ヨリがしたい仕事や、地方では無理だけど東京でならできるという仕事への情熱が見えない。

東京でなら解消されるというのは逃げ。夢幻堂先生が都合よすぎるだろういくら何でも。
成功した年上の男性で、あこがれの存在で、導き手。才能への信頼と愛情を一方的に注いでくれる。
あくまで表面は軽やか。少女マンガの伝統ですね。ある意味ファザコンの象徴のような。
でも、こういうタイプの男性は「気が変わったんだ」であっと言う間に手を離します。
あ、少女マンガの伝統では、そんなことないけども。
数々の不倫の繰り返しで傷つきぬいているヒロイン、と言う文法だと、こう言わざるをない。

その相手に、地方公務員で安定した収入を自力で(とりあえず)過不足なく得ているヨリが
手を伸ばすのに、説得力がないと感じます。
ヨリが短期契約とかなら別なんだけど、現在の職場的に「なくてはならないひと」ポジションではあるし、
そういう描写も特にない。

やり直しのきかない年齢であることは再三再四描写されているので、
「老いた時に後悔することはしたくない」
と言うモノローグとの違和感が私には感じられます。

それではヨリのしたいことは、なに?
夢幻堂先生の誘いに乗って東京に行って「なにを」するの?
書評だけなら長崎で司書の仕事を続けながらでもできるし、
町おこしプロジェクトである程度の人脈もできたから、これからもいろいろ広がるんじゃないの? 
東京に行って、夢幻堂先生の庇護があるとしても、
そのあとぽんぽんぽーんと、とんとん拍子で台頭するような才能の持ち主展開だとすると、
ちょっとファンタジー過ぎないかしらと言う。アラフォー女子の『リアル』を描く作品としては。

勿論地方で出来ることはある程度限界があるし、頭打ちでもある。
でもヨリはまだそれをやりつくしてはいないし、
夢幻堂先生の申し出が、自分に負担の少ない都合のいい申し出でも、
それに対して心理的に負い目を感じずにやっていけると言う性格ではないと思う。
夢幻堂先生は×2の(現在)独身だけども、限りなく愛人に近いポジションだし。
おまけに主人公はこじらせ優等生タイプ。

書評以外にも、ヨリが仕事への展望を持ってるといいんですよね。
あるいは書評でも、もっともっと欲があるけど、現状出来ないとかそういうベクトルで。
ヨリのめざしどころが見えないので、ちょっと納得しづらい。
内田樹氏みたいに、思想家という枠を想定すればいいんだろうか? 
文化人枠ではあるんだろうけど。
昔と違っていまは、何が何でも東京!! って時代じゃないと思うんで、そのあたりにも違和感が。
どちらかというと自分にとって馴染むで使い勝手のよいサイズの街に拠点を置いて、
フットワークよく東京に来るほうがありなんじゃないの? 
と言う個人的な実感に、私がとらわれすぎてるのかな。
あるいはなんだかんだ理屈をつけて飛び出せない、
『老いた時に後悔する』人間の考え方なだけかもしれませんけど。

私は現在横浜在住ですが、都内に行くとああやっぱり神奈川って「都」とは全然違うなあ、と思います。
映画とか演劇とか美術館とかいろいろあっていいなあ、と思う反面、
この街の規模は使いこなせないなあとも思うので、横浜でよかったと、概ね安心します。
横浜駅より都内側だったり、都内へ通勤してたりすると違うと言う話もありますが、
横浜在住横浜勤務者としては、ちょっとそういう場所。

ましてやヨリは東京に昔住んでたわけで、単純にあこがれというのでもなさそう。
内田樹氏にしても津村記久子さんにしても、地方なりの(自分にとって)ほど良い
街の規模の中でこそ活動しておられるし。
経済的な足がかりを自分で持っていることに対する執着がもう少し強くあってもいいと思う。
あるいはそれをかなぐり捨てたくなるほど、失った恋が辛いと言うことかもしれないけれど、
ちょっとうまく読み取れませんでした。
まあ、このあたりは私が福岡に帰りたいなー、をこじらせていると言う
個人的な感情に引きずられてるせいかもしれませんが。

よう知らんけど日記

柴崎友香 / 京阪神Lマガジン


↑大阪出身都内在住作家として、東京と大阪の違いとか街の使い勝手とか存分に語られています。
同じく宝塚市出身赤坂在住漫画家のサラ・イネス氏との巻末対談は個人的に必読。

うーん、たとえば演劇関係とか『その場』にいること、リアルやライブであることが
大切な仕事だとこの感想は違ってくるのでしょうか? 
あるいは私が『書評家』と言う仕事のことをわかっていないだけ? 
どこでも出来るようで、フットワークや地の利や人間関係横のつながりがものをいう業界でもあるようですし。
夢幻堂先生の、このトレンディドラマの石田○一か! と言う都合の良さが
何とも薄っぺらく感じてよろしくないです。お、辛辣ね。。
軽薄ぽいけど私には真剣で「いつまでも待つよ」な感じの書割りのような都合良さが・・・にんともかんとも。
まあ少女まんがの伝統ではありますが。伝統的に踏みつけにされるタイプ。

だからこそ、ヨリの仕事(あるいは今後の人生)への展望が必要になるわけです。
夢幻堂先生の手を取って
(取るんだろうなあ。単行本未収録の雑誌掲載分未読なので不明ですが)
東京へ行くことが逃げではないと言う確証が。自分の心からは逃げ切れるものではないもの。

「君は本質を見抜く人間だ。だから地方で埋もれるには、君の才能が惜しいんだよ」

と言う夢幻堂先生の言葉に、現状のヨリの人生や仕事への向き合い方ではやや説得力に欠けます。
確かに地方では、未婚の中年職業婦人(あえて古風な言い回し)への風当たりは全然違う、それはわかる。
でも、東京に逃げてもその問題は解決しないし、

今更ですがものすごい80年代ソング。タイトルといい歌詞といい(でもそこが好き)
大江千里 『去りゆく青春』


仕事をかえて暮らしを変えてきみに逢わぬよう
電話をかえて上着をかえて高さをかえた
カセットのつめ折ったくせさえ忘れようとして
ひとりであるく街は冷たくさざなむばかり


この切なさ苦しさ。
そしてたぶん『カセットのつめ折ったくせ』と言うのが分からない人がいる!!(断言)

まあでもこの段階で、ヨリの問題点が読者には明確になったわけです。
自分がない。求められたこと、他人の評価だけを基準にしている。
自分から手を伸ばすことがない。他人に求められて、それでは応じましょうう、それだけ。
それはそれでいいと思う、と言うかそういうやり方でも、幸せになることは不可能ではない。
でもヨリはそこで、うまくいかないときに相手を恨む。
「誰も私を一番には選ばなかった」って。
ではあなたは? あなたの一番は誰なの? 靖幸ちゃんに泣かれちゃうよ!

※あえてのデビュー曲。この痛々しさとすがすがしさを、夜明けに託すところがたまらない。
岡村靖幸 『Out of Blue』  


実は本作、11月に出てたんですが、
何とかもう少しほめたいなあと思って思い悩んだ結果、2ヵ月後にレビューと言うタイミングに。
うーーーーむ。いろいろ申し訳ない。

引き続き今後の展開にはゆるうく低温で期待しています。
クリアにしてくれるといいんだけどなあ。無理かしら。

ところで夢幻堂先生、モデルは誰なんだろう? 明確にはいないのかな。
何となく東十条宗典先生を思いだします。
こっちはコメディだし、立ち位置はまったくちがいますが。

私にふさわしいホテル

柚木 麻子 / 扶桑社


[PR]

by chico_book | 2014-01-14 04:38 | まんが | Comments(0)

名前
URL
画像認証
削除用パスワード