痛さと紙一重の幸福
ふらりと本屋さんに行きましたらでてました。よかよか。
※2巻の感想はこちら。
美大を卒業した主人公が、いよいよ宮崎に戻るところから話がスタート。
正直言って、この作品に接するまで東村アキコはそこまで好きな作家ではありませんでした。
手が早いんだろうけど、筆が走りすぎてやや上滑りするというか暴走気味というか、
話をたたむとかまとめるとかに、あまり興味のないタイプかと思っていました。
確かにギャグはちぎれてて畳みかけ方とか面白いんだけど、
もうひと押しふた押し丁寧さが足りないのが、どうにも気になるという印象。
しかし『海月姫』は丁寧に少女漫画なので、だいじょうぶだよね? と、固唾をのんで見守っておりますが。
しかしこの作品は素晴らしい。
作中でも自分のことを
『作家でなくプロデューサータイプ』
『モノをただ見て描く絵は描けても、自分の中で形を構築する絵は描けない』
と分析するシーンがあります。
丁寧に自分と向き合って、若い日の自分の愚かしさを過剰に卑下するわけでも、美化するわけでもなく、
真摯に向き合うことは困難さを伴う、と思うわけです。その冷徹な視線が、痛く厳しく、ここにある。
わすれないこと、その感情を瞬間冷凍のように保存していつでもリアルとして取り出すことができること。
いつまでも乾かない傷口があるという痛ましさと、それを忘れず、見逃さず、
見つめ続けて自分自身に問い続けずにはいられないこと。
それこそが東村アキコ氏の作家としての資質ということなのかな、と思う作品です。
3巻ではいよいよ漫画家デビューの経緯が語られます。
しかしいくらなんでも『水性ボールペン』で、定規も使わず3日で書き上げた投稿作品が
いきなりデビューに該当する賞を受賞というのは、やっぱりすごいですね。
(実際には掲載されませんでした。そのいきさつが大変面白いので、興味のある人は是非読んでみてください)
でもきっと、もしここでデビューに該当しなくても、東村アキコはきっと、漫画を描き続けたんだろうなあ。
才能とは何なのか。創作するとはどういうことなのか。
芸術として絵画にむきあうことと、漫画を描くということの違いを
本当にわかりやすく描いています。その意味でも一読の価値あり。
ところで東村アキコさんがデビューしたのは、今はなき
『ぶ~けデラックス』増刊号
ですが、作者の『ぶ~け』愛が暑苦しく(泣き笑い)語られていて、
激しく共感する次第です。泣ける。
いまにして思えば、ありえないくらい走った作品のラインナップで、
そしてそこに読者もガンガンについていったという、幸福な時代とその記憶。
そしてこの季節、冬枯れの関東平野を見るたび、私の中にほんのりとよみがえる
痛さほろ苦さのぼんやりとした輪郭につい思いをはせます。
単に、九州から受験の為に来た時の思い出というだけなんですけども。
あの時あんなにも何もかもよそよそしく見えたのに、
神奈川に暮らして10年以上にもなるという不思議。
そんなふうに、全然別の話なのに、ひとの中のなにかに触れる作品だと思います。
やはり続刊が大変楽しみです。
by chico_book | 2014-01-27 00:33 | まんが | Comments(0)