人気ブログランキング | 話題のタグを見る

夢で逢えちゃった

リアルで(もちろん)あったこともないのですが、夢の中で彼女に会いました。会ってしまいました。
恐らくは試合後、スポーツクラブか、あるいはホテルか何か、とにかくオフィシャルな場所の
ひとけのないロビーで偶然に見かけて、驚きながらおずおずと声をかけさせていただきました。

彼女はおっとりとほほえんで、丁寧に、でもしっかりと答えてくれました。
夢の中の話ですけど。私はスポーツクラブに、縁なんてない人間だけど。

なんとなくはずかしいので畳みます。





バンクーバーの時の浅田選手は、私にとってそこまで激押し! な選手ではありませんでした。
もちろん嫌いではないし、好きな選手で応援もしていたし、金メダルを取ることをみじんも疑っていなかった。
むしろバンクーバーには、中野ゆかりんを出してあげたかったなあ・・・(えらそう。何様?)
という思いをずるずる引きずりながら、女子フィギュアは浅田選手が金メダルを取るのを確認しましょう、
そうしましょう、というテンションでテレビの前に座りました。そしてみなさんご存知の、あの結果が出ました。

4年前の浅田選手の印象は『厳しい選手』。
自分とスケートの間にほかの何物の介入も許さないような厳格さが際立って印象的でした。
フィギュアスケートに限らず、点数で評価される種類の競技は、
どうしても『スポーツか芸術か』という話になってしまいます。
バンクーバーでも、クワドを巡ってまず男子で大騒ぎになっていたし。
(ほんっとうに今更ですが、ジョニーはもう少し上がよかった…)
スケートは体育の時間で4時間滑った(というより、ただ立っていた)経験しかない人間には、
正直何もわかりません。それでも、私は彼女の「熱烈なファン」ではなかったのです。

いまふりかえってみると、その厳しさにある種の不安を感じていたのかもしれない。
張りつめた糸のような緊張のうえで、限りない挑戦を続ける10代の少女。
トップアスリートに(勝手に)そんな感情を抱くなんて大変失礼な話ですが、
その一本気さ、厳しさに気圧され、もし何かあったら、その緊張が根源から覆されるような、
想定外の『何か』が起きた時に、彼女はそれに耐えられるのだろうかと、
勝手に不安になったていたのだと思います。
天才少女として圧倒的な人気を持つ、すくすく成長してきた選手という思い込みも多分にあったし、
(お母様の病気のことをよく知らなかった事もあり)国内拠点での練習など様々な要素も、
その思い込み(あるいは偏見)を後押ししていたように、いまふりかえると思えてきます。

彼女は、純粋に「競技としての可能性」に興味があるタイプの選手で、
ひたすらそこだけを見ているように思えた。
もちろんその結果の素晴らしさは言うまでもなく、それだけでも充分すぎるほどすごい選手なのですが、
私は見ていてすこしさみしかった。どこかで不安がいつもありました。
でもスポーツなんだから、競技なんだからこれでいいんだ。
浅田はそういう方向の選手であり、迷いなく突き進み、すばらしく成功している。
表現や演技や伝え方より、まず自分自身の理想が確固としてあり、それに向かって進む求道者の在り方、
それが浅田の選択であり志向なのだ。ひたすらにフィギュア『道』に邁進する選手。そして、それで充分。

それに対してライトないちファン、いち視聴者である私がむにむに思うのは、
よくあるプロ野球ファンのおっちゃんの『俺の理想のスタメン』語りみたいなもんなんだ、と、思っていました。
しかも4番に「ドカベン山田太郎」が入ってる。それまんがのキャラでしょ、みたいな。しかも昭和。
おまけに勝手に言いたい放題。『俺の見立てではイチローはピッチャーでも行けたんだよ』みたいな。

バンクーバーの後、浅田選手は(私の大好きな)佐藤信夫コーチに師事することになり、
正直これは大変なことになったと思いました。
タラソワコーチの『真央のできることあれもこれも伸ばしましょう!イケイケドンドン』方針(に見えました)から、
一気に『基礎の基礎からやり直しましょう』という佐藤コーチへ。
毛皮のコートに身を包んだタラソワコーチが、大喜びしながら全身でまふまふと
真央ちゃんを抱きしめるのを見慣れていたから余計にそうなのかも、と思いつつも、
浅田選手と佐藤コーチ、ふたりのキスクラでの距離。
お互いに思っていることはありそうなのに、それについて黙ったまま(に見える)のふたり。
やばい。これはやばいかもしれない。

(この間を私がここで振り返ってもしょうがないのでとばします)

そして4年後のいま、浅田は素晴らしい選手になりました(たびたび、えらそうでごめんなさい)
方針の違うこともあったでしょうが、浅田は佐藤コーチの指導も受け入れたし、
『フィギュア道』の求道もあきらめずに、極めることができた。
そしてたそこには、彼女が目指していたと(私が勝手に)想像していたような、
峻烈な山頂のような狭く険しい場所ではなく、あたたかくてやさしい優美な世界が待っていた。
そこにたどりついた浅田は、途方もない厳しさを乗り越え克服した人間が持つ穏やかさを、
私たちに見せてくれる。いやびっくりした。
腕のあげかた、肩のまわしかた、背中ごしにふりかえるまなざしや指先の表情。
なにこの穏やかさ。やわらかさ。上品さの中にある強さ、気高さ。うつくしさ。そう、うつくしさ。

中島敦の『名人伝』は、弓を極めんとする名人の話です。素手で、弓を射る真似をするだけで鳶を射落とす名人を、主人公・紀昌は師と仰ぎます。以下青空文庫より、一部引用。

しかし、弓はどうなさる? 弓は? 老人は素手だったのである。弓? と老人は笑う。弓矢の要る中はまだ射之射じゃ。不射之射には、烏漆の弓も粛慎の矢もいらぬ。
 ちょうど彼等らの真上、空の極めて高い所を一羽の鳶が悠々と輪を画いていた。その胡麻粒ほどに小さく見える姿をしばらく見上げていた甘蠅が、やがて、見えざる矢を無形の弓につがえ、満月のごとくに引絞ってひょうと放てば、見よ、鳶は羽ばたきもせず中空から石のごとくに落ちて来るではないか。
 紀昌は慄然とした。今にして始めて芸道の深淵を覗き得た心地であった。


やがて修行を終えた紀昌は街に戻るのですが、その後死ぬまでの四十年のあいだ、
ただの一度も弓を手に取ることはなかったそうです。
本当に面白いので、興味のある方はどうぞこちら(青空文庫)で。短いのですぐ読めます。

浅田選手が、この物語の主人公に具体的に似ているということではありません。まったく違います。
寓話的な物語を、現役トップアスリートに結びつけることの愚かさ・ファンのくだらなさは言うに及びません。
ポエム語ってんじゃないよ、と自分でも思う。

それでも私はいまの浅田を見ていると、この話を思い出します。
極めた先にあった世界は、演技に対する欲とか希望とか、あらゆる恣意的な感情とは無縁の境地で、
そこでふわふわと自然に舞うことができてしまう、それが今の浅田選手ではないかなと。
もちろんそんなのはただのフィギュアファンの思い込みです。中島敦とかを連想するのも、本読みの与太話です。

私の夢の中で浅田さんは、とてもおだやかににこにこ笑っていました。うれしかった。
ありえないことに、人のまばらなロビーで、彼女と私はたまたまふたりきりでした。
おそらくおずおずと、でもとても晴れがましく『おめでとうございます』と言ったような気がしています。
浅田さんはまっすぐに笑ってくれたと思います。ほんの短い間だったと思います。


すごく悩んだのですが(だって夢の話なんて恥ずかしいしくだらないし、
ただのファンの迷惑な妄想みたいなものだし)やっぱり開幕前(ぎりぎりだけど)に、
書いておくことにしました。もう団体戦の予選はじまっちゃうけど!
プルシェンコが見たいけど怖いけど、見てしまうことでしょう。うう。

それにしても、こうして勝手に夢に登場させられてしまうなんて、
トップアスリートって本当に大変なことだと思います。勝手に夢に見ておいて何言ってんだということですが。
知らず知らずに背負っているものの大きさ重さ。

気がつくとずうっと、脳内で浅田のラフマの2番がリピートしているのです。
特にステップのところと、最後のポーズきめきめのところ。

by chico_book | 2014-02-07 00:26 | 日々 | Comments(3)

Commented by ゆう at 2014-02-11 23:59 x
こんばんは!
うっとり読ませていただきました。
本当にバンクーバーの頃はぴんと張りつめたオーラが出てましたよね。それが今や優しく穏やかないろんなものを超越した雰囲気に変わっています。「求道者」の部分はあまりかわっていないけど。
ラファエルじゃないけど本当に「素敵なレディ」になられましたよね!
ここ最近私も夢にでてくるほど真央のことをいつも考えていて、ぼーっと現在の「あの穏やかさ」がアスリートとしては弱いのかなーなんて考えたりしていました。やっぱりオリンピックで勝つのに必要なのはもっと違うものなのかなーと。
ゆかりんなんて、やっぱり普通のいいとこのお嬢さんだったと思うのです。感覚が普通の人。村主荒川安藤鈴木浅田って並べてみるとなんて濃い!!(笑)ゆかりんは本当~に普通の気立てのよいお嬢さんだなーって。
でもやっぱり求道者師弟に勝ってほしいな!
もう来週には結果が出ているんですねー。4年間の集大成が。どきどき。私もさすがに夜更かしします。
Commented by chico_book at 2014-02-13 21:31
ゆうさん、こんばんは! コメントありがとうございます。
夢のこと、自分ですごくびっくりしてしまいました。目が覚めた殻もしばらく呆然としていたほど。いつのまに、そんなに好きに(笑い)って。

穏やかさがアスリートとしてはもしかして弱いかも、とのこと、よくわかります。ドヤドヤ感とは無縁ですよね。超越した感じ。どうかどうか、自然に素直に、思うままに滑っていただきたいし、それがうまくゆけばすばらしい結果になると信じています。CMまんまだけど、ほんとにみんなの祈り。

※続きます(ほとんど仕様です)
Commented by chico_book at 2014-02-13 21:41
まっちーのせいで(笑)ゆかりんの火の鳥動画をついついみてしまいます。まっちーどうしてくれるんだ! 信夫久美子夫妻に挟まれたキスクラ…。泣ける。ゆかりんの、きれいで凛として気の強い真面目なお嬢さんが気迫を持って臨む姿が大好きでした。みんなそれぞれの武器があるんだけども、こづといいゆかりんといい宮原知子ちゃんといい、どうも私の一押し選手にはなんか共通点があるような気もしています。ううむ。
にしても改めてすごいですね『村主荒川安藤鈴木浅田』次点で恩田も入れておきたいけども、でもちょっと入れない方がいいかもしれない(笑)

ところでプル様の羽生くんへのコメント、私は最初『新手の精神攻撃か?』と真面目に思っておりましたが、結構本気なようでもありますね。そして羽生くんのメンタルの強さ。
いい意味でのふてぶてしさとかクレバーさがあるところがすばらしい。
ああでも、もうすぐはじまっちゃいますね。こわいこわい。たった8分たらずがすべてだなんて。仮眠するつもりだったのに、とても無理っぽいです!!

そして今この時も、丁寧に淡々と浅田さんは調整していると思います。ヴァーチャルハグはあまりに失礼なので、やっぱりお祈りしかないかな。
名前
URL
削除用パスワード