淡々と力強く

『日の鳥』 こうの史代

日の鳥

こうの 史代 / 日本文芸社



被災後の東北をめぐる旅行記のような、詩のような、随筆のような、スケッチのような、

主人公はなんと雄鶏です。多分白色レグホンという種類かな。
とてもポピュラーな種類のにわとりではないかと思います。
そして彼は、突然いなくなった妻を探して旅をしている。
※こうの史代氏は『こっこさん』という、やはりニワトリが主人公の作品を
これ以前にも描かれているのでそういう意味では「なんと」というほどではないのかもしれません


彼が訪れる東北の、さまざまな街のいまの(震災後の)風景が、
宝物を扱うようなやさしさあたたかさで、そっと示されています。
(一部東京が舞台の場面もあり)

こうのさんの繊細でていねいな風景描写のなかに配されるまんがっぽいにわとり。
ごく小さく描かれることも多いのに、そして白黒画面なのに
まっしろく輝いてみえ、なんとも言えず目を引きます。
白い部分と、赤いとさかのコントラストがはっきり見える気がする。
力強い足とか、いかめしいくちばしさえも、まざまざと伝わってきます。
精密描写されている絵ではないのに。その不思議。

心象と風景の融合という点で、こうの史代氏は前作『ぼおるぺん古事記』でも
素晴らしい調和と力を生み出していましたが、本作でも冴えわたる力量は健在。

ぼおるぺん古事記 (一)天の巻

こうの 史代 / 平凡社


ぼおるぺん古事記 過去記事

大きく強く、輝く光そのもののような、そして唐突にいなくなった「妻」。
彼女を探し、あてどない旅を続ける夫。これは鎮魂の物語だと思う。
おそらく夫(にわとりですが)は妻にあうことはないのではないかしら。
その不在をつぶさに観察し、自分に沁みこませ、納得させるための旅路。
淡々とした明るさが切々と胸に迫ります。


ふと気づく

そうだ 

わたくしはもう帰る家を

持たないのだと


そして思う

この世界のどこもが

妻の待つかもしれない

地なのだと



ひたひたと湧き出でる泉のような寂寥と尽きない嘆きをありのままに描写している。
明るい静寂の中にある不在の大きさ、喪失の質量がこちらの胸に
ひたひたと伝わる良作です。
切なさと、あたたかいユーモアに充ちた短い文章の力。
私はなんとも長文体質なので、このバランスの良さに感心することしきり。
そして作家が絵に向かい合うとき、何を描こうとして何を描かないのか、
そしてそれは見る側にどう伝わるのか。
そんなことを考えながらしみじみと頁をめくりました。

絵と言葉の融合の、その力を作家自身が何より信じているのだと思う。
その真摯さが、みるものにまっすぐ届いている、稀有な作品です。


それにしても、自然の力により
(本作では明言されてはいませんが、私にはそう受け取れました)
不意に奪われた妻を探し求める夫、というイメージに、どうしてこうも胸が熱くなるのか。

それは、私の胸をこの作品がよぎるせいかもしれないし、
『千年万年りんごの子』

千年万年りんごの子(2) (KCx(ITAN))

田中 相 / 講談社



2巻の感想 3巻の感想

『ぼおるぺん古事記』で描かれた『黄泉比良坂』を想起してしまうためかもしれない。



それでも生きのびた

それでも生きている

それでも生きてゆく


やるせないような


それでもすこし

ほこらしいような


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by chico_book | 2014-06-14 00:54 | まんが | Comments(0)

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