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タイトルと装丁は何とも秀逸

話題になっていた作品を図書館で借りました。周回遅れ気味の話ではあります。

『ここは退屈迎えに来て』山内マリコ

ここは退屈迎えに来て

山内 マリコ / 幻冬舎



さっくり読了。地方ガールのロードサイドを舞台にしたのファスト風土を鮮やかに描いているんだとか
なんとか、書店員さんの手書きポップにありましたっけ。うーん。残念ながらピンときませんでした。
でも面白くは読めたんですけど。

しかしこのタイトルにこのカバーデザインというのは、なんともお見事。
買いそうになるのを何度もこらえた本であります(文庫版もまたよし。両方並べたくなる)
各章のタイトルもぴしっとはまっています。『地方都市のタラ・リピンスキー』なんて!。
(いまも心の中でそっと真似する(こともある)、タラちゃんのガッツポーズ!!)
でもそれで、ちょっと期待しすぎたきらいもあるかな。
あるいはタイトルでネタバレ気味でもあります。そのまんまの話でもあるので。
「え、それだけ? 」と思うか、
「おお、やはりど真ん中、来た! 」と思うか、の違いでもあるのだけれど。

ぜんぜん届かない訳ではないんですよね。なんでもあるのに荒涼とした国道沿い、
そこを車で流すひとたちのものがたり。
ユニクロ、無印、しまむら、ブックオフ、ツタヤ、エトセトラエトセトラ
(ちなみに私の育った自治体には、ユニクロもスタバもありません(涙)
『まあいっか、ユニクロでなんか調達すれば』まで車で40分というハードル)
その街に居続けるもの、でてゆくもの、また帰ってくるもの、そこここにちらばる感情を
丁寧かつリアルに描写してある。でも何だろう、すごく遠い。
そういうことあるだろうね、とは思う。ああ、そうね、そうだよね、でもそこでおしまい。
体積を持って立ち上がってこない。よけられない水たまりみたい。
通るためには踏み込むしかなく、踏めば濡れてしまうけど、
深さがなくそれ以上にはかかわってこない(本作に深みがない、という意味合いではありません)

例えば、江國さんの描く小説世界の方が、はるかに『現実』からは遠いです。
ときに、かるがると関係を持つ男女とか、
空気も前後も何も読まず「のびやかに」おのれ自身でありつづけるところとか。
「ある」か「ない」かでいえば、「ない」。もう、まったく「ない」。
川上さんもそうかな。それでも、不意につきつけれれるごくごくささいなディティールが、
ぐわっと立ち上がってくることがあります。そのあたりなんとなく対照的かも。

もしかすると、世代論めいたものと切り離せない話なのかもしれません。
かつてブイブイ言わせて(ていうかこの表現がすでにして時代的な違和感のもとになりそう)
肩で風を切っていた『ギャル』の時代の空気をたっぷりと含んでいるし、
その時代を象徴する固有名詞もガンガン出てくる。
※作者は80年生まれ。

先日『なんとなく、クリスタル』を図書館で読んでいろいろ衝撃を受けたのですが、
そうですね、共有している時代の空気や距離感を加味しないと、
ちょっと推し量れない部分は大きいのかもしれません。

それでは、たとえば私には突き刺さる
『かくかくしかじか』も、ひとをえらぶのだろうか、とか思います。

かくかくしかじか 4 (愛蔵版コミックス)

東村 アキコ / 集英社



『師弟もの』『青春成長もの』としてある程度一般性のあるジャンルにいるとも思うけど、どうなのかな。
いわゆる90年代カルチャーとか『ぶ~け』などなどに馴染みがなければ、受け止め方が違うかな。
※『かくかくしかじか』過去の感想はこちら→ 2巻 3巻 4巻

しかし安野モヨコさんは世代としてはワタシに近いのですが、ものすごく『ギャル!!』と
言われる女子高生の、愉しさと空虚さ、しかも卒業してからの現実までも描き切っていたなあ。

『花とみつばち』

新装版 花とみつばち(1) (モーニング KC)

安野 モヨコ / 講談社



なんと新装版が出ているとは!! 全然知らなかった。

女子の生活とか友情とか夢とか希望とかあきらめとか
愛とか恋とかあこがれとか失望とか、まんがで扱われぬいている素材なので、
まんが読みが評価すると、ちょっと厳しめになるのかもしれません。

そういえば、昔から一貫して賛否両論かまびすしい(おつかれさまです)村上春樹氏の
(ある意味)代表作である『ノルウェイの森』の、有名な冒頭部分。
着陸した飛行機の機内で聴こえてくるビートルズの『ノルウェイの森』。
動揺して頭を抱え、顔を覆う主人公。
そんな彼を気遣い、声をかけてくる機内乗務員に、彼はこう答えます。
「大丈夫です。ありがとう。ちょっと哀しくなっただけだから」
「そういうこと、わたしにもときどきありますよ、よくわかります」

この機内乗務員に『そんな奴いないよ! 』という評を読んだことがあります。いやそれただのツッコミだよね
と思うんだけども、実はそういう声は昔から結構大きかったと思う
(講談社社屋を赤と緑のベストセラー垂れ幕(!!)が染めていた当時の話)
まあだいたいそこから転じて、氏の作品世界は内向きだとかなんとかかんとか
そういう批評が展開されるながれでした
(春樹ほんっとうに叩かれてたよねぇ……と、なんだか昔語りばかりになっておりますが)

私には、いくらなんでもそれはちょっといちゃもんじみて聞こえたんだけど、どうかな。
そう思うのは、単にワタクシが春樹読者だからでしょうか。
読書体験で『共感』を基に語るのは、かように難しいことでもあります。

単純に私が年を取って、経験を経て、ここで描かれているようなビビッドな感情から
遠くなってしまった、ということかもしれない。
でも津村さんの書く中学生とか、結構胸に迫るんだよね。うーん。

都会には都会の、地方には地方の、更にイオンすら遠い僻地には僻地の
辛さと孤独と悲しみがあり、あきらめとささやかな幸福や居直りやなにやかやはある。
そこへの踏み込みが、もう少し足りなかったような気がします。
でもこの作品は、そういう汎用性ではなくピンを絞って
対象を抽出しているので、と、言われれば納得出来るます。

あと、ロードサイドとかファスト風土小説、ということばに
引きずられ過ぎない方がいいかも。
私はそれを意識して読んでしまっていることに気づいて、途中でやめました。
ふつうの若者、あるいはもう若者ではなくなりかけた人たちの物語です。
この本が面白かったのでついつい、頭の片隅で意識しながら読んでました。

世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと精神分析 (角川書店単行本)

斎藤 環 / KADOKAWA / 角川書店



ともあれ、あまりそういう細かい線引きをきつく引きすぎずに、
いろんな本を読んでみようと思います。ひきつづき。
図書館も有効活用しつつ!

こちらがたのしみすぎて怖い。ガッツリいきますよ!! 
きっとそういうヒトばっかりかな。そこもふくめてたのしみ。

岡崎京子展@世田谷文学館 2015/01/24-03/31

※リンク先はファッションプレスの記事です

by chico_book | 2014-12-09 00:57 | | Comments(0)

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