やさしいことばとねこ(と)タクシー
3年前の2月の火曜日の夜。
はっきり記憶しているのは、録画しておいた『最後から二番目の恋』を観ていたから。
いつものようにソファーで観ていました。おなかにのってくるちこを、やわやわと撫でながら。
ドラマのなかでも、キョンキョンさんご自宅の庭に通ってくるにゃんがいて、
いいねえ、かわいいにゃんさんだねえ、ちこ、お友達が出てるよ、
と勝手なことをぶつぶつ言いながら。
ドラマを観終わって、よいしょ、と起き上がろうとうしたときに、なんだか無性につらかった。
下腹部が痛い。腹筋運動たくさんしたあとのの筋肉痛のようなしんどさ。
おかしいな、運動得にしてないのにな、ストレッチが足りないのかな。
それともちこが重たいせいかしらね、ねーちこにゃん、
かわいいかわいいグラマーさん、なんてことをのたのた言う、小さな幸せ。
その先週に、発熱した私は、『軽い腎炎』ということで
抗生物質を処方していただいておりました。
ちょうど、おくすりが切れたくらいのタイミング。
まだちょっとだるくて、もう一回病院行っときたいな、でも明日は休めない日だ、
どうしよ、まあいいや、とにかく寒いし、あったかくして寝よう。
ちょっと本調子じゃないんだよね、なんて思いつつ。
変わらずおなかは痛くて、そこにのんのんするちこに『やめてー』なんて
むつむついちゃつきながら、あたたかくとろとろと眠りに落ちる。
そんな平和な夜でした。寒い2月の夜。
翌日。
ふつうに出勤して、淡々となんとか業務をこなすも、おなかは痛い。
一足ごとに痛みが響くようになる。
ずん、ずん、と、レンガとか石とか、何か重いもので押されてるような痛み。
おかしいなあ。腎炎ひどくなってるのかなあ。ちょっと違う痛さのような。
だんだん悪寒と関節痛も増してくる。
2月のことだし、寒いだけかと思ってたんだけど、どうにも辛い。
くちが半開きになり、そろーりそろーりとしか歩けない。
ずうっと「いたた、いた、いた」と、小声でつぶやき続ける。
朝の「辛そうね、大丈夫?」と言った風情から、
昼前には「動きが不審なレベル」になり、
15時前には
「できれば床にへたり込んでいたい」
というほどのだるさと痛み。まわりもなんとなくざわざわしはじめる。
ここでようやく『ちょっと病院行ってきます』と言って会社をぬけました。遅。
この時点では、戻る気満々で、パソも起動したまま、
その日返却予定のツタヤのDVDも、机に置いたまま。
病院の開いてる時間には帰れそうにないから、ちゃちゃっと行ってきて、
もう一回おくすり出してもらって、また職場に戻ってこよう。うむ。
そんな目論見。
とは言うものの、歩いて5分の病院に、バスに乗らなくてはたどりつけない状態でした。
うーん。ふりかえって言うのだから当たり前だけど、読みが甘いですね。
あるいは過信、といえばいいのか。
ようやくたどりついた病院で、かくかくしかじか説明。
熱を測ったところ38.5度。おお。そんなに。
じゃあ今日はもう、最低限やらないといけない案件だけやっつけて
残業はパスしようかな。ぼーっと考えている私に、ドクターは言いました。
「一階のレントゲン室に、すぐ行って」
ワンフロアの移動に脂汗がだらだら出る。壁伝いに、這うようにして移動。
レントゲン台に上るのも、姿勢を変えるのも一苦労な痛みの中で、ぼんやり考える。
おなか痛いだけなのに、レントゲン? なんで? …確かに強烈に痛いけど。
※私はもともと胃腸が弱い方で、ビオフェルミンと太田胃散をいつも持ち歩いています。
ここまで痛いのはそうそうないけど、いつもの延長だとしか思っていませんでした。
レントゲン、血液検査が終わった私に、ドクターはこうおっしゃいました。
「今からね、紹介状書きます。あと、受け入れ先探してるからちょっと待ってね」
「…紹介状? どういうことですか? 」
「白血球数が16000くらいあるの。それで高熱で、腹痛でしょう。
何か炎症だから、大きい病院でちゃんと見てもらいなさい」
「あ、それじゃいったん会社にもどります。いろいろやりかけなんで」
「馬鹿言わないで!! 」
(ドクター真顔)
「あなたね、先週の段階でも白血球10000越えてたんだよ。
基準は9500以下なんだから、その2倍ちかいの。
ガチの炎症だよこれ。体の中のどこかがどうにかなってるってことだよ! 」
(ええええええ)
「うちじゃなくて、救急病院で対応してもらわないといけない。
この時間だと、結構受け付け終わっている病院多いんだから大変なんだよ。
でも必ず見つけるから待ってて」
診察室のすみっこの、パリパリに糊のきいたシーツのかかっている寝台に
もたれながら(横になることがすでに億劫)、目をつぶってぼぉっと考える。
(紹介状…紹介状って書いてもらうだけでも、お金かかるんじゃなかったっけ?
今日いくら持ってたかな。足りるかな)←足りました。
そしてようやく見つかった病院、レントゲン写真やら紹介状やら
なんだかよくわからない書類がどっさり入った封筒を渡されて、
ドクターに発破かけられます。
「早く行って!! 病院受け付け終わってるから夜間緊急入口からはいってね!
はやく早く、とにかく早く見てもらって! 」
「・・・はい」
病院を出て、まず職場に電話。
今日は職場に戻れそうにないこと、いまから別の病院で検査すること
(たぶん明日も休みそうです)、結果がわかったら改めて連絡します、
とかそういった類のことを。
「ちこぼんさん(仮名)!! 」
ぎゃ!! なんと、病院の方が、路上まで追っかけてきました。
「ああもう、なに電話なんかしてんの!! ほんとに早く行きなさい!
あとね、この時間はこっちの交差点渋滞するから、
○○経由で行ってくださいってタクシーの運転手さんに言わないとだめだよ! 」
は。はーい。
迫力に圧倒されて、あわててタクシーを探す。
数台いるのに安心して、
近くの郵便局で少しばかりまとまった金額をお財布に入れる。
「すみません、○○病院までお願いします」
「はいはい。お見舞いですか? 」
と運転手さんに言われました。
歩きはよたよたしてるんだけど、それ以外は普通だったんだと思います。
訂正する元気もない状態。
ちなみにその運転手さん、
『娘が結婚する相手がなんだか頼りない、けど今の若い人はあんなもんかもねえ、
まあうちの娘もたいがいだし、
そんな娘を好きになる相手だと思えばそんなもんかも、ごにょごにょ』
みたいな話をしゃべりまくっていました。
私は、気分がまぎれたのでまあよかったのかもしれない。
やはり不安ではあったのでしょう。
でもふつうに『総合受付』に到着して、
その場で動けないのでスタッフさんが車椅子を持ってくる騒ぎに。
ちゃんと説明して『夜間救急入口』に車をつけていただくべきでした。
紹介先の病院で、また血液検査にレントゲン、CTスキャンしていただいて、結果。
「盲腸→即入院→明日緊急手術ね! 病室空いてるなんてあなたラッキー。
ごはん朝から食べてなくてほんとよかった」
「いやいやいやいや、いったん帰りますよ帰らせて帰る!! 2時間あれば準備できますんで」
「はあ? 何言ってんのコレ(注:盲腸のこと)爆発寸前だよ。爆発したら命に係わるんだよ!
必要なものはナースセンターに言えばいいし、売店で明日買いなさい(その日は売店閉店済)」
「いやいやいやいや、だってだってだめです」
「なんで」
「ねこがいるんです! 寒くておなかすかせてるねこが!!」
わたしはっきり覚えています。外科の緊急外来のスタッフ全員が私をまじまじと見ました。
「ねこが」
「はい!! ごはんもお水も朝あげたっきりだから、私のこと待ってるはず」
2月の17時すぎ。外は真っ暗です。暗い部屋で一人待つちこを思う。
「他に誰かいないの」
「そんな急には無理」
「入院にはなるんだよ。その間、ねこの世話のあてはあるの? 」
「それは、キャットシッターさんにお願いするしかないけど、まず連絡してみないと」
「キャットシッター……?? なにそれ。ベビーシッターみたいなかんじ? 」
「はい。旅行とか出張とかで家を空けるとき、ねこのことをお願いするんです」
「わかった」
ドクターきっぱりと言います。
「ねこのことが心配なのはわかるけど、
僕らは人間の医者だから、人間の命が危ないかもしれないことに許可は出せない。
とりあえずそのシッターさんとやらに相談してみて。
そのねこがふつうに健康だったら、ひと晩くらいは、
ちょっとさみしくてひもじいだろうけど、
深刻なダメージにはならないはずだ。ねこのことはわかんないけど」
こういうの現実的な落としどころというのかな。
そう思いながら、特別に許可をいただいて、
診察室で携帯を取り出し、シッターさんに電話。
「あ、○○ねこさんですか? ちこぼん(仮名)ですが、急な話ですみません」
シッターさん屋号に「ねこ」がついているので、こういう口調になります。ざわつく診察室。
(このひとねこに電話してる……)
「緊急入院即手術の患者なのに、猫がいるから帰ると騒いだあげく
ねこに電話したひと」
として、まるまるひとつき
(盲腸なのに事後がよくなくてひとつきもかかりました。トホホ)
の入院中、ずうっと「ねこのひと」という
たいへん名誉な称号をいただいた理由は、ほぼこれです。
いま思い出しても胸を張りますよ。ハイ。
何故とつぜん、3年前の話を滔々と語りはじめたかというと、
金曜日以降、ちこにゃんちょっと風邪気味さんだからです(涙)
土曜日に病院に行ってきて(主治医は、祝日もあいているのです。よかった)
注射とおくすりをいただきました。
さしあたって緊急で心配な状況ではありません。
でもちょっといまも元気のないちこにゃん。
季節の変わり目、寒暖の差の激しい不安定な天気、ちょっとしたケア不足
(天気予報を鵜呑みにして湯たんぽをおろそかにしたり、
暖房の温度を下げるのが早すぎたのかも)
などが細かく重なったのかもしれない。
いままで問題なかったことも、ちこの加齢や状況の変化などもあるわけだし。
そんな不安な気持ちで、キャリーをよいしょと抱えてタクシーに乗った時、
まざまざと、3年前のそのタクシーの中で感じた気持ちを思い出したのです。
いきものと暮らすこと、そばにいさせてもらえる喜びとか慈しみとかを
しみじみと感じながら、のタクシーの中。
信号待ちで振り向いたタクシーの運転手さん
「ねこちゃんですか」
というので、キャリーの扉越しに、ちこの顔を見ていただく。
「かわいいねこちゃんですね」
と言われて
「まーーーーおううううううう」
と、うなりかえすちこ。運転手さん笑ってくれました。たぶんかなりの猫好き。
「そうだよねえ、病院行って嫌なことされて、そりゃごきげんななめだよねえ」
やさしいことばに、思わず半泣き半笑いになる。
その間もずうっとご不満で唸り続けるちこにゃんさん。
・診療台のうえでのちこ。おなかを触られて『肥満ですね』といわれているところ。
すごい真顔。
無理しなくていい。けど、早く元気になるように私はお祈りする。
ちょっとおとなしいので投薬(点眼点鼻)をしやすいのはありがたいけど、
うれしくない。ぜんぜん。
by chico_book | 2015-03-22 12:25 | ねこ | Comments(2)
実は私もで、今日が本格復帰でした。
元来丈夫で得な体質かと思っていたけれど、今回ぶり返して長引いて不安になり、丈夫=病気の経験値が低い ということに気付きました。
病気がちな人の方が細かい変化に気づきケアもするので結果長生きする、という話を聞いたことがあります。
ちこにゃんはねこ風邪キャリアさんとのことですが、
それを体現して欲しいですね。
ちこにゃんが順調に回復しますように。
私はぜんそくもち扁桃腺持ちなので、
実は突発的な高熱にはなじみがあります。慣れませんけど(笑い)
細かい無理がつみかさなると39度近い熱がぱーっと出ます。
でも大病ではないので、そういう意味では経験値は高くないです。
ちこにゃん、ずいぶん落ちついてきました。
何より涙が出なくなったので安心です。
鼻筋はまだかぴかぴなので、もう一頑張りかな。
そして古い写真を見て、ちこはもともとねこ風邪さんで、
最近は落ち着いていたということなんだなあと思う次第。
そしてねこ風邪ウィルスのコントロールこともあるので、
もっとまめに病院に行けるようにしないとな、
ということが胸に沁みました。
今回はいいけど、今後まめな通院が必要になったら、と思うと、悩みどころです。
momoさんはお元気ですか? そちらも春の気配でしょうか?
横浜は、桜の開花がそろそろ来る? くるくる? と、秒読み状態です。
momosさんふわふわにゃんだから、この時期は抜け毛がたいへんなのかしら。
ヤスミーナちゃんのちんまりしたかわいい写真を見て、
ちこにゃ、ダイエットがんばろうね、と言い聞かせています。