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『ビミョー』ということばは便利すぎて『やばい』

※タイトルの『やばい』は、あまり肯定的でない意味合いです

ようやく観てきました。
『海街diary』


(動画は再掲です)

すごく丁寧に作られている。
原作へのリスペクトを感じることのできる作品です。
これはもうファンとしてありがとう、と言わざるを得ない。

ただ、それでもなんだか違うんですよね。
なんだろうこの違和感の正体。それをゆるゆる考えてみました。
ネタばれあります。公開中だし、長くなるので畳みます






原作は読み切りの連作で、静かな日常が続いていくタイプの作品です。
鎌倉で暮らす4姉妹を中心に、それぞれの心の動きやひととの触れ合いを
ていねいに描く作品で、しかも続刊中。

これをどう切りとるのか、どうまとめるのか。
でもまあ是枝監督だしなあ、と、
いくばくかの不安とほんのり薄目で期待、というテンションで劇場にいきました

広瀬すずちゃん、とてもよかったです。
年の離れた異母妹である「浅野すず」という少女に
(役名と女優さんの名前が同じというのがすでにしてミラクル)
どれだけの説得力があるのか、
というのがこの映画の要になるとずっと思っていて、
実はすごく心配していました。
告知でいろんなところに出ている広瀬すずちゃんは、
ふつうにきらきらした、まぶしい若い女優さんだったので。

でも映画の中のすずは、ほんとうにすずでした。
きらきらしすぎてなくて、そこがよかった。
いろいろな都合の中で、自分とおりあいをつけて
まわりとのバランスを図る、真剣な少女。

山形時代の制服のスカートが、ちょっと短かったのが惜しい…。
制服(夏服)のさわやかさと相まって、しゃきしゃき走るシーン、
短いスカートの軽快さはつらつさはすばらしいのですが、
そこはもちょっとダサくても、無頓着な(あるいはそれどころでない)
女子中学生でいてほしかった、なんてことが気になるくらい。

男子にまじっても、見劣りしないほどサッカーの上手な
少女という設定も、違和感なかったです。すごくほっとしました。

それではなにが気になっているのか。
もしかすると、長女で責任感の強い幸(さち)を
演じる綾瀬はるかが、あまりに美しすぎたのかもしれない。

市民病院の『優秀な看護師』でもあり、
娘を置いて再婚した母親の代わりに
妹の面倒を見て、家事を切り盛りする姿。
鎌倉の路地の奥の昭和の民家で、
てきぱきとこなす姿が、やや凛々しすぎたような気がします。

『東京物語』

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松竹



原節子が演じるのは、戦死した次男の妻・紀子。
若くして未亡人となって8年、
いまも東京でひとりで働いている紀子に、
姑である東山千栄子はいいます。

「息子のことはもう忘れてくれていいんだよ。
あなたはまだ若いし、いい人がいたら気兼ねなしにお嫁に行きなさい。
そうじゃないと私もつらいんだから」

あとになって紀子は、涙ながらに舅・笠智衆に告白するのです。

「わたくし、お母様が思っているようないい人間じゃありません。
そんなにいつも、あのひとのことを思ってばかりいるわけじゃないんです
このごろはもう、思い出さない日さえあるんです」

大輪の花のようなあでやかな美貌の原節子を
『うら若い未亡人』にして、
こんなことを言わせるという小津監督の、
二重三重に屈折した沈殿したエロティシズム。ひゃー。


綾瀬さんのまぶしいほど白い、本当に真珠のような肌。
すんなり伸びた手足、まとめられた黒髪、優雅な首筋。
あかりの届かない昭和の古い民家の中で、
そこだけ白い花が咲いているようなまぶしさ。
それこそいまの季節、藪や林の中ですっくと咲いている
ヤマアジサイのように光を放っていました。誇張でなく。うーん。
つましく美しく正しいその姿。
にじみ出る抑制のきいた色香を、
しつこく丁寧にていねいに是枝監督は描いています。
これでもか! とばかりに、あますことなく描かれていたと、
いう印象を受けました(個人の感想です)

そのせいかな。
「正しい日本の母(像)」「長男の長男の長女・総領娘」
度がちょっと上がりすぎたような気がします。美貌って大変だ。

原作の草薙素子が美人で有能で部下の信頼は厚いけれども
『メスゴリラ』とも言われるような存在だったのに
映画で
『強くてかっこいい(そして手の届かない)女神』
ふうな解釈になってしまったような違和感かな。

攻殻機動隊 (1) KCデラックス

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(映像作品も複数あるようなので、あくまで一例です)

映画『タッチ』で南ちゃんを演じたらしい、
ということくらいしか知らない長澤まさみさんですが、
長澤さんのよっちゃんはよかったです。
南ちゃんみたいな正しい役ではなくて、
ちょっと剛毅でヤンチャな大酒のみのよっちゃん。

夏帆さんは、たぶんはじめて見る女優さん。
三女のチカちゃん役ですが、よかったです。
アフロじゃないのに、違和感なくかわいかった。
(原作ではアフロヘアが印象的なキャラクターなのです>チカちゃん)
学級委員の長女と、ヤンチャっぽい次女が
なにかとぶつかりあうのをバランサーとしてとりもちながら、
その中で自分のやりたいことをちゃんと見つけて、
ひょうひょうと過ごしてきた軽みのようなものが、
すごくよく出ていました。

しかし、いちばんすごかったのは大竹しのぶさんだと思います。
なんというかふつうのおばさんになってるんですよ。
しかもちょっと間の抜けた頼りない、どこの親戚にもいる
「なんだかなあ」「わるいひとじゃないんだけど」
というようなタイプのおばさん。びっくりした。
あ、大竹しのぶだ、ではなく、
あ、くたびれたおばさんだ、でも大竹しのぶだよね、このヒト、という。

役柄そのまんまの、生活の疲れやうしろめたさが
全身にまとわりついている、へこたれたおばさんに、完全になっていました。
置いて出て行った娘たちに負い目がある、それを悟られまいと、
みえみえの虚勢を張る、そんなひと。

だから余計に綾瀬さん演じる長女の正しさ強さを
(それはある意味傲慢さであり、暴力にも通じるものである、
そのこともきちんと描かれるのですが)
まぶしくかんじすぎたのかもしれない。
そしてそんな二人をいさめる大叔母さん役が樹木希林。
こちらは樹木希林!! だけど間違いなく大船の大おば!!
という、大竹さんとは異なるはまり具合。
こちらもびしっとおさまっている怪演でした。

それからこれは、原作ファンだからかもしれませんが、
きちんと役者さんがつきすぎていたように思います。
確かに原作ではあの人もこのひとも、
背景や心理や登場人物たちとのかかわりがしっかり描かれます。
だから、原作ファンは登場しただけでその人物のことをある程度理解してしまう。

でも映画では(当然ですが)そこまでは描かれません。
それはそれでいいと思うのですが、だからこそ逆に
そこに『顔見せ』的に加瀬亮さんや鈴木亮平さんが登場すると、
意識が残っちゃう。

あれ、この人の話までひろがる時間あるのかな、
あのエピソードどこで出るのかな、なんて。
豪華すぎるキャストには、そういう難しさがあるなあと思いました。
原作未読のひとだと背景が見えない分、
かえって消化不良感はないのかもしれないのですが。

この映画だけだと、全然なんだかなあとしか思えない
藤井君も小児科の先生も、それぞれ抱えているものがちゃんとあるんだよ、
と思うだけに、惜しいというか悔しいというか。

そしてこうしてみると、姉妹それぞれのパートナー、
あるいは心が近づく男性の扱いが原作と
大きく違うのが気になります。ううむ。
(たとえば庭の梅の実を収穫するシーンは、すずちゃんひとりになってました。
原作ではサッカー仲間とわいわいにぎやかなシーンです。
もちろん、単純に尺の問題とか、いろんなバランスによるものでしょうが)

それでも、なんとなく異性を排する傾向はあるかな。
長女の不倫相手の小児科医を演じた堤真一さんの、さらっとした演技、
その抑制のきかせ具合はとてもよかったので、
どこまでがアンダーコントロールなのかはちょっと判断つきにくいけれど。

長女の正しさは強さで、それは彼女が生きてゆくために身につけた
(身につけざるを得なかった)鎧で、
それがときに誰かを傷つける武器にもなることを、
しみじみと伝えるには綾瀬さんが、
少し眩しすぎ正しすぎたように見えます。
(たとえば、尾野真千子さんのような『蔭』の
あるひとだと、また違ったかもしれない。
ただ綾瀬さんの内側から発光してるような肯定感が
かなりこの作品のトーンを決めているので、
そのあたりのバランスはむつかしそう)

その光の由来が、男性監督の
『清く正しい日本の母あるいは娘』
を求めるきもちから自然に発生したものかどうかが、
いま気になるところ。
あと、江國さんの作品が映画になった時に感じる
違和感との違いについて、つらつら考えています。
(江國小説の映画作品を観ると、やっぱり男性には江國さんは
わかられつらいのかな、と思うことが時々あり、その解釈の違いに興味があります)

音楽は菅野よう子さん。
情感豊かなのに、しっかり抑制がきいているのはさすがでした。

そして、こんな長広舌を一言で表現してしまう『ビミョー』って
すごいけど、怖いなあ、などと思います。
それだけではわからない『部分』が好きな私は、
こうして存分にながながしておりますが。

by chico_book | 2015-07-01 01:22 | 映画 | Comments(4)

Commented by Linda at 2015-07-01 15:00 x
ちこぼんさんが原作を大好きなことが伝わってきました。
私がそれくらい大好きだからこそ気になっちゃった作品ってなんだったろう。
昔確かにあったという記憶はあるのに思い出せません。感性の鈍りが悲しい…

海街diaryをWikiで読んでみました。
登場人物とか設定とか詳細で驚きました。
どうしてこんな物語が紡ぎ出せるんでしょう。

東京物語のお話ありがとうございます。
家にDVDがあるけどまだ見たことなくて、大好きなアキ・カウリスマキが小津監督を絶賛して(You Tubeにもあります)いるからいつかは見たいと思っています。逆輸入ですね。
Commented by chico_book at 2015-07-02 22:16
Lindaさん、コメントいつもありがとうございます。
我ながら長々しい感想ですが、まとめると
『綾瀬さんがちょっと美人過ぎた』
としか、言ってないのかなこれ、と
自分の記事をゆるゆるふりかえっております。

原作未読だったら、さらっと馴染めたかもしれない。
ただその場合
『鎌倉・古民家・つましい美人姉妹の暮らし』
という要素がより『男性監督の夢』だなあと
思ってしまうかもしれません。
いやとか、好みじゃないとかでは全くないのです。
ただ、こういう抑制を久しぶりに観たので
ちょっとあてられてしまいました。

原作についても、そのうち記事にしたいです。
いつも思うのですが、
こうして自分なりに感想をまとめると、
自分の感情の細部までが明確になるので
(自己満足ですが)書いてよかったなあ
なんて思います。照。

『東京物語』、ぜひぜひお時間のある時に!!
むかし春樹さんが(たしか)朝日堂のどこかで、
「ドイツ語吹替えの『東京物語はすごい。
老夫婦の
「そうですか」
「そうだよ」
「あらまあ」
なんて、何気ないやりとりが
ドイツ語になると印象が全然違う」
と書いてました。
そちらで観る『東京物語』はどんな感じかしら??
私もひさしぶりに『過去のない男』とか、観ようかなー。
草いきれの濃い、
じっとりした日本の夏に観るカウリスマキ。
Commented by Linda at 2016-02-29 21:27 x
フィンランドに上陸しました。DVD化の暁には間違いなくうちの棚に
並ぶでしょう。
http://www.finnkino.fi/Event/301416/

題名は姉妹達という訳になってます。
Commented by chico_book at 2016-03-02 01:28
Lindaさん情報ありがとうです!

わたしはついついこの作品を(鎌倉の)
風土に寄せて考えてしまったので
フィンランドで見るとどんな感じなのかな??
ちょっと興味深いです。
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