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濃い緑と蝉の声と重い影の中で軌跡に触れる

ちょっとばたばたしていきそびれそうになった展覧会に、
最終日の一日前にようやく行くことができました。ひさびさの上野。

ヘレン・シャルフベック -魂のまなざし-
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※7/26終了してます。次は8/6から宮城県美術館にて。
おお!! 
宮城県美術館というと、横須賀でほっこりのこれがあるところではないですか!
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関東ではありがたいことに年明け、神奈川県立近代美術館・葉山分館に来ます。
出来ればまた行きたい。
冬晴れの日、相模湾を見ながらもう一度向きあえるときっといい。

今回はじめて、東海道線直通の上野東京ラインを使用。
東京駅の次がすぐ上野というのに驚き。
速くて便利と言えば便利だけど、うーんまあねえ、もにょもにょ。
もっともこういうのは、日々通勤でハードに利用する人に
お話聞かないといけないのかもしれません。

ひさびさの上野。行ってから気づく、夏休みモード全開! 
そっかあ。それはそうかも。

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中心ずれずれですが、この角度が大好き。

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入れたためしのないオサレスタバ。

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なんと企画展同時開催中。なんでしょうこのとりあわせ。

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夏木立、強い陽ざし。

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どーんと開催しております……。
私が図書館で見かけたのはこの自画像のポスターでした。

展示数は90点余り。
こちらはそこまで大きい箱ではないので、わりあい妥当だったと思います。
それでもしっかり詰め込まれていて、
観るのにぎりぎり辛くない程度のにぎわいぶり。

3歳の時事故に会い、生涯足が不自由だたっというシャルフベック。
実は私はロートレックのファンなのでその点でも興味深く思います。
(なんか失礼なこと言ってますが)
欠落を抱えた人間がその部分を敬して遠ざけるのではなく、
つまびらかにしようとする姿勢に、心魅かれるのだと思う。
そういえば、傷口や注射針の刺さる瞬間を凝視してしまう癖があります。
見たいわけではないのですが、
『じぶんの体がこういうふうになっていることを把握する義務があるのだ』
という謎の使命感。
あとわたし自身『先天性股関節脱臼』で、
歩きはじめるのがずいぶん遅くて、
両親はかなりやきもきしたようです。
ありがたいことに、学齢以降は特に問題なく過ごしているので、
(どんくさい運動の苦手な子供ではあり、
そのまま改善されることなく大人になってはいますが、
ごくごく標準的なレベル)
手前勝手な思い入れに過ぎないのだけど、
なんとなく共通点のようで気になるポイントでもあります。

不自由な足の為、学校に通うことなく
家庭教師に学んでいた彼女が絵の才能を認められ、
11歳という例外的な年齢でフィンランド芸術家協会で
デッサンを学ぶことが許されます。
そののち18才で作品が認められ、奨学金を得てパリに留学。
天才少女が、如何なく発揮する才能、一見はなやかに
はじまった彼女の人生と芸術を順々に追うことのできる展示でした。

パリ留学から戻った後は、母親の介護をしながら、
ひたすらに自分のスタイルで絵画を描き続けたシャルフベック。
ひとりでも描き続ける意志の強さと、彼女が体験する二度の大失恋。
(20代で経験した一方的な婚約破棄と、
50代で理解者であった年下男性が別の女性と婚約したこと。
このタイミングがなんとも言えませんね。
それぞれ完全に原因が別で立ち直りにくい気がして、胸が痛い)

それでも彼女が描き続けることができたのは、
もちろん何より彼女自身の強さではあるのですが、
その時に友人らの力強く篤い支えがあったからだと思います。
ひとりでも描くことができる、描かずにはいられないのが天才だとしても
それでも他者という支えが必要なこと。
他者を必要とするのは、必ずしも悪いことではないこと。

活動期によってかなり作風が変わるところがたいへん興味深い。
自分で自分の形をどんどん変えてゆくめまぐるしさ、
ためらいのなさ、勇気。
時期や時代によって、画風は著しく変化します。
その変化を一気に目にすることができるのが、
この展覧会の迫力。圧倒されます。

『女性の芸術家の何人が幸せな人生を送った?
才能なんてない方がいいのかもしれない』

※台詞はうろおぼえなので、記憶違いだったら申し訳ありません※
『ハチミツとクローバー』より。
(あまり肯定的な引用でないので、リンクははりません)

私はこういう考え方が正直好きではありません。
才能の有無と幸せは関係ないし、性別はもっと無意味だと思う。
単に目につくので話題にしやすいだけだと思います。

ただこういう作家の物語から、
そういう結論を導きたがるひとが多いのだとは、思う。




ヘレンを支える友人たちは彼女の才能をきちんと理解し、
彼女に必要な助言を与え、支えました、
彼女自身もそれにこたえることのできる関係でした。
50代で失恋した相手、エイナル・ロイターもそのひとり。
(この方の『森林保護官で画家』という肩書がかっこよすぎてくらくら)
秘めた恋、などではなく、自分の結婚に対して
思いっきり恨み節をぶつけてくる19歳年上の女性と、
それでも生涯友情を持ち続け、伝記も書いたほどの人物のです。

創作にゆきづまった時に自らの作品のモチーフへの再挑戦を
紹介したのも、古い友人で画商のヨースタ・ステンマンでした。
そんな人生が幸せでなかったなんて、誰が言えるのかしらと思う。

意志の力に充ちた作品が、丁寧に並べられた展覧会でした。
見ごたえがあります。
時間をかけて、ひとつひとつ丁寧に鑑賞するのにとても向いた展覧会。
建物を出たあと、目が眩むほどの強い陽ざしと
短い生を歌いあげるセミの声のシャワーがふりそそぐ。
そして、セミの一生を誰が不幸と言えるのかしら、とも思う。

これから仙台>広島>葉山と回るようです。
広島は昔住んでいたのでとてもうれしい。
私が、セザンヌのりんごに目覚めたのは広島でした。
(どのりんごもみんな違ってみんないい、と、
描き続けずにはいられなかったセザンヌの気持ちにシンクロ)

と、検索してみたら
『奥田元宋・小由女美術館』 ※公式サイト
広島県三次市での展示だそうです。
広域農道と大きな公園に面した
「日本で一番、月が美しく見える美術館」
なのだそう。
静かな場所で静かに向き合うのに向いた展示だと思います。季節は秋。
素晴らしい。私が行くことはちょっと無理ですが。

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いろんなイベントが行われているみたいです。夏休み企画なのかな。

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この道の先の建物で、皆さんアートに、自分の魂にむきあうのかな、
なんてミーハーに思ってしまう安直。

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こんな看板の裏さえかっこいいと思う、安定のミーハーさん。

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オサレスタバとおなじく、いつも満席で縁のない場所。
まあいいや、と、とことこ公園をぬけます。気持ちいいルート。

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上野はやっぱりパンダの街かな。グリーンなのが都心ぽい。


◎おまけ◎
グッズコーナーは『うらめしや展』といっしょだったので大混乱。
休憩コーナーで一息ついて荷物の整理をしていると、
おとなりのマダムから聞こえてきた会話。

「でもさあ、50代のおんなのひとに迫られたらひくよね、ふつう」
「うんうん、それはそうだよ。怖いよね」
(…それは確かにそうかもしれませんけど、それだけでもないよねこれ)
「だって19歳でしょ? むかしのひとだし、子供というよりへたすると孫じゃん」

がくっ。
マ、マダム、エイナルさんは『19歳年下』であって19歳ではないですよー。
ありえない度は似たようなもんだよ、って言われちゃうかな、
なんて思いながら、その場を去りました。
でもちょっとおもしろかったかな。ありがとうマダム。

いろいろ無理して都合つけたのですが、本当に行ってよかったです。
冬の葉山で再会したい。きっとずいぶん印象が違うはず。

by chico_book | 2015-07-28 11:03 | イベント | Comments(4)

Commented by みんと at 2015-07-30 08:21 x
ちこぼんさん、ブログにおじゃまします(*^^*ゞ
シャルフベック展の記事、本当に素晴らしいですね。きっと行ってない人も一緒に見てきたかのような気分を味わえるんじゃないでしょうか。わたしも見逃してたポイントにたくさん気づきました。ロイターさん、森林保護官って肩書きももってたんですね。
恨み節ぶつけられても、伝記出版し最後までサポートするってのは、シャルフベックさんの絵に惚れ込んでいたのでしょうね。
シャルフベックさんの絵、
わたしは人生後半の絵になるにつれ、
ゾクッとするような凄みを感じて胸にせまるものがありました。
そう思わせるくらいがきっと画家として才能あるってことなのかもしれないし、ちこぼんさんの言うように欠落をあえてみせることに魅かれます。
帰りのマダムの会話、面白い!
わたしも、注射針見る派です(笑)

ちこぼんさんが紹介していた「ほっこり美術館」「永青文庫の春画展」気になってます。
永青文庫、静かな場所にあって建物も好きなんです。



Commented by chico_book at 2015-07-31 02:37
みんとさんコメントありがとうございます
ワーイワーイ!!

結構展覧会ってその状況込みで
記憶に残ってしまうようなところがあります。
私の最大の後悔は
『横浜そごう美術館』
にくるからいいや、と、
板橋美術館での
『ミッフィー展』
をパスしたことでございます。
結構年月が経っているのに、
今でも思い出すとちょっとくやしい。
横浜そごうだから当たり前なのですが、
デパートの中の美術館より、
林に囲まれた美術館の方がよかったなあと、
のちのちゆるゆると後悔したりしています。
交通費を計算して、2000円くらい違ったので
ついつい諦めちゃったんですよねぇ。

そういう意味でも、
このロケーションで観ることができてよかったです。
きっと。
でも葉山にもなるたけ行こうと思っていますが
(我ながらしつこい)

ロイターさんかっこいいですよね。
ぜんぶ折込済でつきあってたんだろうなあ、
なんて考えるとワクワクします。勝手に。
やっぱり、ヘレンとアラン・チューリング、
どことなく通じるところがある様な気がします。

そして永青文庫、
実はワタクシ行ったことがないのです。
たのしみ。
なにかの小説の舞台があの周辺だったような
記憶があるのですが、うまく思い出せません(馬鹿)
涼しくなったころに、とことこ散歩がてら
行きたいなあ。都心の秋は綺麗な場所が多い印象。

川越は、『保護猫カフェ』に伺ったことがあります。
横浜から乗り換えなしで行けるし、
ちょっと遠足気分でたのしかった記憶。
横浜と違う、「関東平野」を実感できる
空の広さにワクワクします。
行きたいところばっかりー!!
Commented by みんと at 2015-07-31 18:45 x
へぇ~、川越に「保護猫カフェ」なんてあるんですか!今度行ってみます。
板橋区立美術館は、毎年夏に開催されるボローニャ絵本展で、永青文庫には一度だけ行きましたがどちらも静かで緑に囲まれた場所にあるので、ロケーションは抜群でしたよー。
ただ、どちらも駅からのアクセスが不便。だけどそんな不便さも帳消しになるくらいオススメ美術館です。
永青文庫は人も少ないし秘密の隠れ家な雰囲気。壁に本棚とかが埋まっていて素敵な洋館でした。
建物とミスマッチのような浮世絵を展示するなんて最初で最後かも!?
行く価値ありそうですね♪

Commented by chico_book at 2015-08-02 07:15
みんとさん、重ねてありがとうございます。

川越の保護猫カフェは、「ねこかつ」さんと言います。
http://ameblo.jp/cafe-nekokatsu/
私がうかがったときは、ほんとに『猫』メインの場所で、
ドリンクはお金を払って店内の冷蔵庫から
ペットボトルを買う方式で、
ひたすらにゃんと触れ合うことができました。
私としてはその潔い割り切りっぷりに
感銘を受けたのですが
(お金はすべて保護ねこズのため!!)
知人に話したところ
「え、それってカフェなの? 」
と、どん引かれましたが。
猫好きだからそれでいいのです。
むしろそれがいい。

そうなんです。ミッフィー展開催時はまだ、
地下鉄も横浜から乗り入れしてないこともあって、
とにかく闇雲に遠く感じたんですよねぇ・・・。
場所がよくわかんないのと、
交通費が往復で結構かかるので、
「横浜に来るから、まあいっか」
と判断したのですけど、
いまでも思い出すとちょっと残念です>自分が。
いまちょうどボローニャ国際絵本展
やってるみたいですね。
8/16まで。週末あと二回かぁ。

永青文庫、気になりますね。
みなさん、ひっそり気配を消して
そぉっと来るのかな(もちろん私も)
都心の隠れ家。大きい箱でない方が
雰囲気よさそうで楽しみです。
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