人気ブログランキング | 話題のタグを見る

受容と拡散ありのままを、すこしだけ俯瞰で

とてつもなく笑えるけれどまったく笑えない、背筋の凍る物語。
ヨーロッパ映画らしいブラック。

『帰ってきたヒトラー』 公式サイト



実は公開直後(6/17)に鑑賞したので、少し時間がたっています。
もう一度観たくてうずうず。
仕組みが入り組んで、ひねりがとても多いので初見は処理に追われがち。
こまかいところをていねいに拾いたいなあと思います。
(でも時間的に厳しい)
ジャック&ベティにそのうち来るそうなので、タイミングが合えば迷わずゴー、と、自分メモ。

タイムスリップして現代に登場した総統、アドルフ・ヒトラーが
企画力不足でクビになったテレビマンと
出会うところから物語は始まります。
総統を「なりきり物真似キャラ」として売り出すことで、
起死回生を図るテレビマン。さて世間の反応はいかに?

とにかく怖い。
怖がらせる怖さでなく、どこまでもコメディなのに背筋の凍る怖さ。

総統がふつうにちょっと変わったおじさんで、
もちろんいろいろツッコミどころはあるのだけれど
ちょっと笑えるところもあり、
『見るからに狂人』などではまったくないこと、

彼の強弁をあくまでもネタとして、世間が面白がって受けるところ
(あくまで真剣ではなく)

「あの時も、最初はみんな笑っていたよ
でも気づいた時にはもう引き返せなかった
どこでまちがえたのか、いまでもわからない」

市街地で市民とヒトラーが交流するシーンは、
ドキュメンタリーとして撮影されたそうです。
(なので、一部のひとは顔にぼかしがありました)

あくまで傾向として、ですが、
年配の人は戸惑いやおどろきを隠せないのに、
若い人は積極的に手をふったり、いっしょに写真を撮ったり
していたのが興味深かった。
完全にフィクショナルな存在で、
キャラとして昇華されていると言うことなのか、
あるいは
「ヒトラーを支持するような気持が過去のものではない」
という実感を持っているか否かと言うことなのか。

※ただ『原作小説がベストセラー→映画化』と言う流れだったので、
もしかしたら気づいていた人のリアクションかもしれません。

「私が大衆をだましたのではない 国民が私を選んだのだ」


という、有名すぎる言葉が重くのしかかります。
選択、判断のむつかしさ。それでも向きあわなくてはいけないこと。

大変にすぐれた作品です。
コメディとシリアス、そこに時事ネタのバランスの絶妙さ。
この作品をまったくぶれずに制作したスタッフと、
ドイツ映画界に尊敬、いや畏敬。まあ畏れてはいけないのですけれど。

日本ではこういう映画はできないのかしら?
戦争からみで、こういう作品はあるのかなあ。
実は戦争が
『異文化の無理解あるいは誤解から生じたささいな衝突からはじまって
誤解が誤解を生み、どんどん泥沼になってゆく』
様相を描く作品としては富野アニメが秀逸だと思う古い世代。

参考)まとめサイトの記事です
「伝説巨神イデオン」に秘められた真実とは?

私の群像劇好きはたぶん、このあたりのアニメが原体験。



1991年制作。
裁判員裁判が日本ではじまる(2009年)はるか以前の作品。
大好き。これと『王様のレストラン』があるので、どうしても三谷幸喜には点が甘い。
(近年は落ちついていたのですが、『真田丸』で現在大フィーバー中)

こんなふうに、リアルなんだけど情にながれないような。

コメディである必要はないけれど、シリアスになりすぎず、
だけどシビアな作品が観てみたいなあ。。

空気を読みまくって根回ししまくって情とか対面とか派閥とか
あらゆるものがスパゲッティからマーブルになって、
だれも止められずに戦争に進んでゆく様相を、
浪花節やウェットな悲劇でなく、
戦争の悲惨さを「使命感から」リアルに描くのでもなく、
人々の気持ちの流れとして描く作品があるのかしらん。

古い日本映画、実験的な作品の多かった時代の作品に
あるかもしれないので、探してみようかなと思います。

あと「まんが」ジャンルにもありそう。
探してみよう。大変そうだけどたのしみ。

とりあえず原作小説とはこまかく違うそうなので、読んでみたい。

帰ってきたヒトラー 上 (河出文庫 ウ 7-1)

ティムール・ヴェルメシュ / 河出書房新社



(でも積読があまりに多いのでちょっと迷っています。
映画の印象強いうちに読むのが吉でもあるし。悩)

by chico_book | 2016-07-09 09:08 | 映画 | Comments(2)

Commented by Linda at 2016-07-10 21:02 x
日本から持参した数少ない本を昨日開き、下の言葉が目に止まったのでこの記事を読んだとき不思議な偶然を感じました。

---ポーランド系のユダヤ人の息子であったジャン=ジャック・ゴールドマンは次のように言っています。

「もしも、私が第一次大戦後の荒廃したドイツに、ドイツ人として生まれていたら、私もまた彼らと同じようになっていたことでしょう。
彼らは、憤り、憎しみ、無知、復讐の夢のなかで育ったのです」

『幸せの扉を開く許すための81のレッスン』より
マリ・ボレル 著/浅岡 夢二 訳---

素敵な日曜の夜を。よく寝て来週もお元気で〜
Commented by chico_book at 2016-07-10 23:16
ひとは簡単にひとを憎むし、阻害するし、あるいは受け入れるし、
まちがわないことは、あり得ないので、いかに対応してゆくか、
余力と言うか、その隙間と言うかのりしろのようなものについて
思っています。

夏休みがあったら読みたいんだけどなあ>原作
先週今週と、家の掃除をしていて家のなかの積読のヴォリュームに
ちょっと(じぶんに)嫌気がさしております。
でもタイミング大事。Lindaさんも、タイミングが合えばぜひ。
名前
URL
削除用パスワード